その働き蟻は、きりぎりすが何をしているのかを全く理解できなかった。彼はいつものように、仲間の死骸を苦労して自分の巣へと運んでいた。道に死骸が転がっていると、感覚器が混乱してどこを歩いているか分からなくなってしまうことがあるのだ。もうすぐで仲間の巣へ死骸を運び込もうと言う時に、彼は初めてそれを耳にした。きりぎりすの音楽だ。きりぎりすは4枚の羽を器用にこすりあわせ、綺麗な、低い低い音を立てていた。その音はとても遠くまで響き、やがて何匹かの似たようなきりぎりすが姿を現した。彼らは何事かを囁きあい、そして同時に違った音色で音を奏で合った。その巧妙な和音はとても幻想的だった。最初からその場に居たきりぎりすが満足そうな笑顔で合図をすると、彼らは歩き出し、蟻の巣から去って行った。働き蟻は地面に死骸を落としたまま、彼らの後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。そしてじっと自分の手を見て、背中に羽が生えていないのを確認し、声も無く泣いた。